寝付くことが出来ずに夜の街へと足をのばしたリュカは、ふいにとある建物からこぼれる明かりに、目をとめた。 そこはルドマン家の別荘であり、今夜そこに寝泊まりをしている人物が誰であるのかは、確かめる間でもなく知り得たことである。 幼なじみとの再開は、リュカの心を惑わせるに十分であった。懐かしさと痛みの入り交じった気持ちを持て余し、今日この時までを過ごしてきた。 だが、そんな日々とも、明日で決別するのである。 そのことが晴れがましくもあるが、どこか寂しくもある。 そして明日下すべき決断を、未だ決めかねていたリュカは、思わず人家の明かりに吸い寄せられるようにふらふらと歩みを進め、その扉を開いた。 「あ……リュカ!」 驚いた様子で立ち尽くす幼なじみのビアンカは、薄明かりの下、普段の勝ち気な表情とはうってかわり、どこか弱々しく頼りない。 胸が痛む想いに、そっと声をかけようとした、その刹那。 「あたし、迷うことなんてないと思うわ」 目を見張るリュカに、ビアンカは笑いかけた。 「フローラさん、素敵な人だわ。優しくて、可愛らしくて。あたしとはまるで正反対ね」 真直ぐとリュカを見据えたまま、静かにビアンカはその美しく長い足を踏み出す。一歩ずつ近付いてくるビアンカの姿に、リュカは何故か足が竦み、立ち尽くす。 「それにね、あたしにはわかる。リュカがフローラさんを見る目、とても優しい……リュカは、フローラさんを好いてるのね。そして、フローラさんも多分……」 言われて、リュカは言葉を失う。部屋の明かりを反射させ、哀しく揺らめくビアンカの瞳ばかりが、鮮明にリュカの脳裏に焼き付く。 そう、そのような覚えがないと言えば嘘になる。 だからこそ余計に、ビアンカの笑顔が痛みを伴い、胸に深々と突き刺さる。 「リュカはね、リュカの後悔しない答えを出せばいいのよ。でも……」 突然言葉を切り、ビアンカは目の前の青年を真直ぐに見つめた。その青く美しい瞳を彩るは、先程とはうってかわった深い慈しみ。静かに、深々と息を吐き、ふいに唇と唇が触れあった。 「でも、あたしだって後悔したくない……! だからお願い。今夜だけでいいから、そばにいて?」 柔らかな肌が纏わりつき、困惑の表情を浮かべたリュカの腕の中、ビアンカは恍惚と寄り添う。 「でも、僕はまだ心を決めてない」 首を振るい、誘惑から逃れようとすれど。 「それでもいい、抱いて……リュカが好きなの。小さいころから、ずっとずっと、リュカだけ……」 「僕も好きだよ」 恋とか愛とかそう言うものであるのか、そうではないのかはよくわからない。だが、それは素直な感情である。 「リュカ……嬉しい……」 うっとりと瞳を閉ざし、ビアンカは再びリュカの唇に唇を重ねた。 先の触れるだけの口づけとは異なり、まるでリュカを味わうように、深々と。 「ん……んん……っ……」 甘く呻くビアンカの声は、静かにリュカの思考を崩していく。 まだ迷っているというのに、こんなことをしては、いけない。 わずかに残った理性も、やがて霞がかかり、夢見心地にリュカはその細い腰を抱きよせた。 「んぅ……リュカ、明かり消して。恥ずかしい……」 切なく呟くビアンカに言われるがままに部屋の明かりを落としたリュカは、もはやそれ以上言葉を重ねる事なく、ビアンカの体を寝台へと沈ませた。 薄布のみを纏った彼女の肢体を確かめるように見つめたあと、布をたくし上げると、リュカの眼前には形のいい乳房が露出した。 それはとても美しく、柔らかそうで、吸い寄せられるようにリュカは唇を寄せた。 「あっ、リュカぁ……あ……」 身をよじらすビアンカの乳首は、薄闇にも鮮やかな程に紅く固く立ち上がっており、リュカの目を引いてならない。舌先でリュカが触れるたび、彼女は頬を上気させて甘く喘ぎを漏らし続けるのだから、リュカは夢中にビアンカの胸に顔を埋め、むさぼる。 「ああっ、リュカ……だめっ、胸だけじゃ嫌……」 息を切らせたビアンカの囁きは艶かしく、リュカの体に衝動となり突き抜ける、欲望。 早く、手に入れたい。 はやる気持ちを押さえ、大きな手のひらは、美しい曲線を描く太腿を割る。 「リュカ……」 暖かなビアンカの肌、そしてわき出す熱い蜜。濡れた感触を指先に感じた時、リュカの昂りは頂点に達す。 痛い程にたち上がった己を、ビアンカの細腰に押し付けながら、リュカの指は性急にビアンカの密所を貫く。 「んんっ、あっ、あぁ……リュカ、リュカぁ……」 ビアンカは声をあげ続けながらも、その細い指先でリュカに触れ、まるでリュカを急かすかのようにせわしなく動かし、リュカを惑わしていく。 理性も、罪悪も、不安も、迷いも。 本能的な欲求の前ではさして意味もなさず、ついにリュカは自ら服を脱ぎ捨て、ビアンカの前に裸身を露にした。 「リュカ……素敵……」 頬を染めたビアンカは筋肉質なリュカの胸に顔を埋め、指先はリュカの性器を握りしめたまま離さない。リュカの全てを欲するような青の瞳は蕩け、切ない輝きに満ちる。 「ねえ、リュカ……」 その先は声にならず、小さな唇ばかりが動く。 だが、リュカはその動きを正確に読み取った。 『早く。』 彼女の意志を確認した瞬間、堪えきれぬ衝動にリュカはビアンカの体を強く抱き寄せると、ゆっくりと彼女の中へと身を沈めていった。 「………っ」 侵入した、その一瞬ビアンカは表情を歪め、つい先程までは恍惚と快楽に身を任せていたビアンカの変調にリュカは狼狽えたが、ビアンカは軽く首を振るう。 「ううん、リュカがおっきいから、びっくりしちゃっただけ……」 熱い吐息まじりの囁きはこの上なく妖艶で、理性の灯火は一つ一つ確実に消し飛んでいく。 ビアンカが漏らした苦痛の声さえ忘れ、リュカは欲望のままに腰を進めた。 「ああっ、リュカ、リュカっ、リュカがいっぱい……よ……!」 柔らかな肌に抱きしめられ、リュカの動きに同調するようにビアンカの腰も揺れ、二人の意識は次第にとけていく。 素肌で触れあう心地よさが性感を高め、二人は無我夢中に互いを求めあう。 「あっ、ん……っ、あぁ……! リュカっ、気持ちい……い、あ――!」 一際強く締め付けられた瞬間、堪えきれずにリュカは、ビアンカの内に欲望を解放した。 「あ……ぁ…………」 リュカの熱さを、長いまつげを震わせながら受け止めるビアンカの事が妙に愛しくて、リュカはその頬に唇を寄せた。 「……リュカの意地悪。口にして」 恨めしそうに睨まれ、今度はリュカは唇を重ねた。 深く、深く味わうような口づけ。 唇を離したビアンカはくすくすと笑い出し、リュカは困惑した顔に中途半端な微笑。 「まいったな、ビアンカにはかなわないな」 笑いながらビアンカはリュカを抱きしめ、姑くの間はそのまま動かなかったが、やがて小さな声がリュカの耳に届く。 「さあ、リュカ。リュカはもう休んだ方がいいわね。またね、リュカ」 手を離す、笑顔の彼女はしかし先程とはうって変わってどこか寂しげである。 何か、言葉をかけてやるべきか? リュカは迷ったが、結局は何も思い浮かばないまま、静かに立ち上がる。 「じゃあ、また明日……」 切ない余韻を残し、ビアンカの吐息ばかりが、闇の中にこぼれ落ちていった。 |
END. |